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認定者インタビュー「富良野市ぶどう果樹研究所」

2019春認定 富良野市ぶどう果樹研究所インタビュー

2019年9月30日 [お知らせ] [minoru]

国内外でも定評のある「ふらのワイン」の歴史

富良野市で栽培されているぶどうは、色付きが良く糖度の高いという特徴があります。

そのぶどうを使って造られるワインはしっかりした酸味とボディ感がある…と、国内外のワインコンクールの受賞歴があり、専門家の間でも定評を得ているほど。

また、富良野市は「まずはふらのワインで乾杯条例」(罰則規定はありませんので念のため)制定や、料飲店組合が中心になって「ワインボール」(ワインのソーダ割り)」のメニュー化など。

市民還元の限定ワインが安価で販売されるなど、地元に根ざした活動も続けています。

 

その歴史は1972年まで遡り、当初は地域の農業振興を目的に事業を開始。

ワイン醸造の研究者で、池田町ブドウ酒研究所の初代所長だった岩野貞夫氏を招き、醸造試験を始めました。

その後、試作を重ねると同時に本格的な量産体制が取れるよう、ワイン工場を建設。

1978年に、ふらのワインの販売をスタートさせました。

 

今でこそ、富良野市を代表する名産品の筆頭であり、多くの市民にも親しまれていますが、

当時は「6次産業」という言葉が生まれる以前の話。

ワインブームも起こる以前、そもそも生産者が加工まですること自体が珍しい時代で、当時としては革新的な事業でした。

 

農業振興を目的に設立された「富良野市ぶどう果樹研究所」。

そこでふらのワインを生産しているのは実は「市役所職員」です。

 

ワインの製造販売を始め、物産展への出店や飲食店への営業や販売活動。

一見すると、一般のワイナリーと変わらない印象も受けますが…。

 

そこには、行政機関だからこそできる「メイドインフラノ」の活動がありました。

 

ワインを造る事は地域の生産農家を支える事から始まるという考え

農業振興のために、ぶどうの栽培に取り組んだ大きな理由に「富良野地方の気候風土がワインの本場であるヨーロッパに似ていて、原料ぶどうの育成に適していた」事が挙げられます。

実際、ワイナリーのある清水山の風景は、ヨーロッパの風景に似た印象を受ける人も多く、眼下に広がるぶどう畑を眺めていると、さながら海外旅行に来た気分にもなります。

 

また一般的には農地に適さないとされる、傾斜地と石礫(せきれき)地の有効利用を図る目的もありました。

(ぶどうは傾斜地や石礫地の方が生産に適しているため)

 

もちろん、気候風土だけでワインが造れるわけではなく、そこには生産者の思いや苦労、工夫が不可欠です。

富良野市ぶどう果樹研究所の仕事はワインを作るための品種選定や品種改良、醸造技術の向上…だけでなく、行政機関として「地域の農業をサポートする」という大きな役割を担っています。

文字通り「官民一体」となって、富良野市の名産品を日本各地だけでなく、世界中に広める活動を行う基盤を担っていると言えるでしょう。

 

生産農家のサポートから加工販売まで行う富良野市職員

ぶどうの栽培に適した土地に行政主導の営業活動。

一見すると順風満帆に感じる人もいるようですが、実際には日々苦労の連続。

その内容を聞くと、市役所職員の仕事とは思えないものばかりです。

 

ぶどうの受け入れや加工、日々の品質管理はもちろんの事、時には生産農家の農場に出向いて様々な相談を直接受ける事もあります。

生産農家へのサポート活動を行うと同時に、増産に向けてのぶどう農家を増やすための活動も大事な仕事。

その一方で、新規参入希望の農家の土地がぶどう生産に適しているかどうかの厳しい判断をしなくてはいけない時もあり、専門的な知識と冷静な判断も必要になります。

 

さらに、ワイナリーでの販売や物産展への出店も職員の仕事。

接客業となれば土日祝日は関係なく、さらにぶどうの収穫期が一番忙しい時期になるため、カレンダー通りの生活…とはいきません。

 

この数年、気候の変化などの悪条件がかさなり、原材料の確保もさらに困難になっていると言います。

一部の商品を生産休止にして主力商品の原料を確保するなどして対応し、同時に将来を見越した生産計画を立て、生産農家の数を増やすなどの対応も早急に進めています。

 

繰り返しますが、これらの業務を市役所職員が行なっています。

 

富良野市だけでなく周辺自治体と協力して新たなブランドを!

苦労が絶えない一方、近年になって周辺自治体にもワイナリーが増え、上富良野町や中富良野町でもワインが生産されるようになりました。

同業他社の出現は悪いことばかりではなく、周辺地域の活性化にも繋がる…と、むしろ歓迎ムードです。

当人達も「自治体を超えた仲間」という意識があり、包み隠さずに積極的な情報交換をするようになりました。

 

さらに、ワインだけでなく、地ビールや地酒なども富良野管内で生産や原料調達がされており、それらが一緒になって活動ができれば新たなブランドを作ることも不可能では無い…と、新たな取り組みも考えているようです。

 

余談ですが、現在(2019年6月)所長の川上さんは、教育委員会に勤めていた経歴があり、元々は社会教育が専門だったそうです。

その経験を活かして地域の小学生に地元産業の魅力や大切さを伝える活動にも意欲がある…と語っていました。

 

6次産業の先駆けとしてだけでなく、地元農業の振興や教育分野での活動など。

富良野市ぶどう果樹研究所は、行政機関として「メイドインフラノ」を支え、リードしていく立場にあると言えるでしょう。